首都圏貨物列車裏街道     尻手短絡線

長岡 貴也(42期生・中学3年)

はじめに
近年、二酸化炭素の排出量削減による地球温暖化防止への取り組みから、それまで主流とされていたトラックによる物流輸送の一部が、鉄道によるものへの切り替えが進んでいる。よって、2000年頃から、鉄道貨物輸送は発展してゆくこととなった。そこで、貨物列車の増発や増強が行われ、趣味として貨物列車を追いかける人々も着実に増加していった。
筆者もその一人として、日夜貨物列車を追いかけていた。貨物走行路線として名高い武蔵野線や東海道貨物線などへと撮影に繰り出すうちに、幹線同士を結ぶ、まるで渡り廊下のようなこの、尻手短絡線に出会った。
細くて短いが、今日の物流を支えるこの路線の現状を追ってみた。
概要
尻手短絡線は、南武線尻手駅と、新鶴見信号場(正式には割畑信号場)とを結ぶ全長およそ1500メートルほどの短絡線である。
南武線の貨物支線という扱いになっていて定期的に走行する旅客列車は存在しない。
東京貨物ターミナル、川崎貨物駅よりの貨物列車が新鶴見信号場を経由して、山手貨物線、もしくは、武蔵野線に直通してゆく場合逆もそうであるが、一旦鶴見駅まで行き、機回しおよび方転(スイッチバック)をしなくてはならない。それらの列車の直通用として、現在も機能しているのがこの尻手短絡線である。
構造と沿線風景
 
尻手駅は、高架線上に位置する南武線の駅である。南武線本線と支線双方の旅客用ホームを隔てて、貨物列車が交換を行うことのできる待避線が存在する(尻手駅4,5番線)。川崎新町方面からの列車は、直接尻手短絡線に入線できる構造となっている。
ここが、尻手短絡線の始発点である。
 尻手駅を出発すると、待避線が合流し単線となり、南武旅客本線の複線と平行に進み、地平へと下る。尻手第3踏切を越え、日枝踏切に差し掛かると、尻手短絡線は緩やかな左カーブを描き、住宅街の中へと埋もれてゆく。やがて完全に独立した路線となり、線内唯一の車両通行不可である踏切で、障害物検知装置が設置されてない最厳寺踏切を過ぎる。
  •  左 日枝踏切から割畑方面を望む
  •  右 日没間近の最厳寺踏切
線路はS字カーブを緩く描き、やがて矢向第3踏切を過ぎる。するとほどなく直線区間となり、矢向第4踏切、矢向第5踏切を越え、東海道新幹線と品鶴線の高架線が見えてくると、二ヶ領用水付近に存在する二ヶ領踏切を通過する。やがてレールは右に急カーブを描き、横須賀線のガードをくぐり、江ヶ崎踏切を通って、割畑信号場構内に進入して武蔵野貨物線と合流する。ここが尻手短絡線の終着点である。そのまままっすぐ進むと、高架であった横須賀線は地平へと下り、並走する形で新川崎駅に隣接する、新鶴見信号場及び新鶴見機関区に到達する。この先で横須賀線と武蔵野貨物線は分離する。
  •  左 二ヶ領踏切より割畑方面を望む。左は割畑信号場の場内信号機、後ろは品鶴線。
  •  中 江ヶ崎踏切より割畑方面を望む。安全側線の奥にある二つのポイントが合流地点。
  •  右 江ヶ崎踏切本体。真上を品鶴線が跨ぐ。
走行する列車と種類
2007年3月18日ダイヤ改正時点での記録では、一日に下り35本、上り34本、計69本の貨物列車が設定されている。(2007年度JR貨物時刻表より)上下で列車本数に差があるのは、尻手短絡線が単線で、線路容量の都合上、鶴見駅を迂回する貨物列車が存在するためだ。迂回するのは2077レ、8559レ、5971レ、8465レ(~8764レ)、8575レの5本で、すべて下り列車に限定されている。
定期的に走行する機関車としては、EF210・EF200・EF66・EF65・EF64・EH200・DE10、等がある。
また、高速貨物列車が下り19本、上り15本、臨時高速貨物列車が下り2本、上り2本、臨時専用貨物列車が下り5本、上り4本、専用貨物列車が、下り8本、上り12本、配給列車が上下ともに1本ずつとなっている。(なお、配給列車に連結される貨車は、熊谷貨物ターミナルへ検査回送されるものであり、長物車・ホッパ車・タンク車・コンテナ車など様々な種類がある。因みに、牽引機は新鶴見機関区所属のEF65型が行う。)

番外編

概要
その他に走行する(した)列車としては、神奈川臨海鉄道千鳥線千鳥町駅から船積みされて、海外の鉄道(ミャンマー・タイ・インドネシア等)に譲渡される車両がある。前例としては、2007年12月まで盛岡車両センターに所属していたキハ52・58型などがあてはまる。また、小田急電鉄10000形が長野鉄道1000形として譲渡回送される際も、編成方転を目的としての入線実績がある。 しかし、入線した車両はそれだけではない。中原電車区(旧弁天橋電車区)所属の205系は、検査の際に国府津への回送経験があり、その際に通過したことがある。
問題点
取材途中に筆者が思った問題点は主として、「単線で線路容量が日中不足している時間帯がある。」「沿線に踏切が多いため、交通遮断量が大きい。」「住宅地をを突っ切るが、走行音による騒音対策がなされていない。」などなど・・・。
だが、筆者が目の当たりにした光景はひどいものであった。いたずらか故障かは定かではないが、非常ボタンが押されていて、踏切中継信号機点灯により貨物列車停止。そして踏切遮断、つまりは交通妨害が発生していたことである。全踏切に監視カメラが設置されていれば未然に防げた可能性があったかもしれない。もちろん、この記事をご覧になる方は、故意にそのような事態を引き起こしてはいけない。
おわりに
地球環境に配慮すべき昨今、鉄道貨物輸送は少しずつではあるが、発展の一途を辿り始めようとしている。現在、M250系スーパーレールカーゴによる、東京貨物ターミナル~安治川口間における佐川急便の貨物輸送が続いているうえに、石油貨物列車、コンテナ貨物列車の高速化や、機関車・貨車の新型車両開発なども順次進んでおり、今のところ行く末は安泰である。 その中で尻手短絡線は、黙々と貨物列車を通し続けている。 貨物輸送のみではなく、車両の回送にも使われる尻手短絡線は、鉄道貨物輸送が万が一全滅したときでも、生き残るかもしれない。もっともそのようなとき、同線は存在意義をなくしてしまうに等しい。 けれども、激動の中に置かれている日本の物流のシステムが、大きく変化するまで、鉄道が走り続ける日まで、尻手短絡線のレールから車輪の響きが、永遠に消えてしまうことは、ないであろう。

この記事は2008年に執筆されましたため、現状と異なっている可能性があります。

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